MPH(Master of Public Health)を取得するうえで、看護師にどのような選択肢があるのか考えてみました。


まず、SPH(School of Public Health)とMPH(Master of Public Health)はどう違うのか?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
前者はいわゆる公衆衛生大学院そのものであり、公衆衛生を学ぶ母体としての呼称です。
一方で後者は、公衆衛生学修士と訳され、つまり公衆衛生大学院に通ったことによって得られる修士号の呼称となります。

さて、国内でMPHが取得できる大学院には大きく分けて公衆衛生専門職大学院と、それ以外の公衆衛生プログラムに分けられます。


①公衆衛生専門職大学院
日本でMPHが取得できる大学院は10か所以上存在しますが、「公衆衛生専門職大学院」と名乗ることができるのは以下の5校のみです。

京都大学
帝京大学
東京大学
九州大学
聖路加国際大学

「他のMPH大学院とは何が違うの?」と思われた方もいらっしゃいますよね。
最大の違いは、専門職大学院を名乗るためには、文科省による認証評価を定期的に受け、基準をクリアし続ける必要があるということです。
つまり、公衆衛生専門職大学院とは、複数存在するMPH大学院の中でも、「第三者評価によって客観的に質が担保されている大学院である」と言えるかと思います。

ある大学院のコース、カリキュラムの一部としてMPHを取得する大学院とは違い、専門職大学院ではMPHだけで一つの独立した大学院となっておりますので、その分、研究室が多彩であったり、学生への支援が手厚くなるのではないかと考えております。


②専門職大学院以外のMPH取得課程
独立した大学院である専門職大学院と違い、こちらは医学系の大学院の中の一部のコース、カリキュラムとしてMPHが設置されていることが多いように思えます。


③海外MPH(主としてアメリカ、イギリスでしょうか)
海外MPHはPh.Dに比べると合格の難易度はぐっと下がるようですが、大学院からの給付を貰うことはほぼ困難であり、実費で留学される方が多いようです。上記の国ですと、年間200~400万の学費に加え、生活費もかかりますので、医師に比べると懐具合が寂しくなる看護師にとってはあまり現実的なプランとは思えません。
私としては、日本の予算が潤沢な公衆衛生大学院に在籍し、大学の交換留学、奨学金を使うことで、修士課程のうち数か月~1年ほど海外の研究生として滞在するのが効率が良いのではないかと思っております。


④オンラインMPH
私は詳しくないので、実際に行かれている方に聞いてくださいませ。
「オンラインだから安いのか?」というとそんなことはなく、こちらも数百万円はかかる代わりに、オンラインでの課題添削、修論相談などもかなりがっつりやってもらえるみたいですね。
「働きながらMPHを取得したい」という方向けだと思うのですが、かなりの目的意識がなければやり遂げられない道だと傍目には思えます。実際に行かれている方ともTwitterでやり取りさせて頂いているのですが、そのタフさを尊敬するばかりです。



以上が、看護師がMPHを取得する際の選択肢になるかと思われます。

次に、受験について。
東大SPHの場合、定員は30名です。
私の同期や、先輩の話を聞いてみますと、だいたい毎年の構成は

医師:15~16人
内部生:3~4人
看護師(内部生除く):2~3人
他職種:7~10人

という具合だと思われます。
私の代は、看護師が5人(うち内部生2人)となっており、昨年の2人と比べると多い方だと思われます。
看護系学生の出身校としては旧帝大、聖路加大、千葉大が多く、比較的受験が得意な層の看護系学生が集まっていることが分かります。

定員30名に対して、医師+内部生で20名ほどは毎年固まっているので、残りの10名枠を競い合うことになります。
ただこの10名枠ですが、非医師の方でも留学経験のある方々も何人かおり(実際、私の代では10名中6名が留学経験ありでした)、英語が50%もの配点を占める東大SPH入試では、こちらの方々がかなり優位になります。
仮に毎年5名の非医師の留学経験者が合格するとなると、残りの5名枠を看護系学生含んでの受験者で争うことになるでしょうか。

SPHの受験科目である英語、疫学・統計学をがっつり教える看護学部が少ないことを考えると、看護系学生にとっては非常に厳しい闘いになってくると思われます。
行政官や医学系研究者と看護の話をするたびに、「政策、経済の観点から看護を語れる人材がいない」という問題意識が共有され、私としてはぜひSPHに進学する看護系学生が増えて欲しいという気持ちでいます。
MPHをもって臨床に戻ったところで、今の看護現場ではもて余されてしまうことが多いので、SPH進学が第一選択にならないということもあるのでしょうが、看護系研究者や行政官を目指すのであれば、疫学・統計学だけではなく、法律や経済、倫理、政策などを通してヘルスケアシステム全体を俯瞰する実力を付けられるSPHという大学院は、ベストな選択肢なのではないかと個人的には思っております。

繰り返しになりますが、SPH進学を第一選択にする看護師がこれからどんどん増えていくことを切に願っております。