夜間飛行

2018年03月

提出書類について、参考にしたいと思った情報をあちこちから抜粋している。
皆さん、日本から米国トップスクールのPh.Dへ留学された方々の意見である。
ただ、それぞれに専門も違えば、選考の担当者も異なっており、どこまでを自分の受験において参考にすべきかは不明である。
なので私としては、あくまでも成功体験の一例として参考にさせて頂いている。
とはいえどなたも非常に詳細で、思慮深いアドバイスをされているので、読んでいると刺激を頂ける。
各ブログからの抜粋になるので、興味のある方はぜひそれぞれのリンクに飛び、本文に目を通すのが良いと思う。



①Letters of Recommendation

・推薦者はタイトルが高ければ高いほど良い。学科長、研究所長など。
・最低一人の推薦者は1年以上付き合いのある人が良い。
・何度か推薦状を書いたことがある推薦者は初めての人よりも審査員に好まれる。
・必要以上の数の推薦状を出すことはNG。
(以上、米国大学院学生会 海外大学院留学ガイドを参考に)

・推薦状を読む人が一番知りたいのは「研究の戦力になるかどうか」です。それにはこういう指示を出したらこのような作業をしてこんな結果を出してきた、とか、こういう問題に直面したときはこのように解決した、とか、という事例が役に立ちます。どんなスキルを持っているのか、どんな作業がこなせるのか、なども分かるように、とにかく具体的で定量的な記述があると良い判断材料になります。
・もし学会発表や論文が準備中であれば、推薦書の中で必ず書いてもらえるようにトピックリストに含めておくべきです。もう一つ効果的なのは、実際に留学した他の学生との定量的な比較です。研究室の先輩との比較が望ましく、卒論中間発表での評価順位など、定量化できればベストです。
・研究能力を評価してもらえる推薦者がほかにいない場合、アメリカの研究者またはアメリカ在住経験の長い研究者に面識があれば、英語のコミュニケーション能力について書いてもらうというのも良いアイデアです。
米国大学院学生会 ニュースレター23号

・で、そうして推薦者候補が見つかったら、今度はその人に推薦状を書いてもらえるほど自分を知ってもらわなければならない。もしその先生が自分の大学にいるなら、授業やゼミを取って積極的に発言してアピールし、授業外でも質問などをし、できるだけ良い成績を収める。学外の人なら、その大学の授業を聴講させてもらって同様の努力をする、あるいは研究会やセミナーといった機会を逃さず、チャンスを見つけて話してみる。リサーチ・アシスタントを募集していないか聞いてみる。もしアメリカから関心のある先生が研究発表などで日本に来るということがある場合、そういったセミナーにも積極的に出て、懇親会などにも残り、積極的に話しかけてみたい。在外研究で日本に来ている場合、日本での研究のアシスタントを求めている場合が多いので、リサーチ・アシスタントとして近しくなれる可能性は意外とある。私自身もこうした経緯で推薦者の1人に出会った(もっともこのケースでは、推薦状確保
を目的にRAをしたというわけではないのだが)。
紅茶の味噌煮込み

私は南部のF州にあるプログラムにトップ合格し、とても良い条件の奨学金のオファーをもらいました。地域や院生の雰囲気などいろいろと不安要素が多く、結局は辞退したのですが、キャンパス訪問をした時に、「○○教授からの推薦状がとても強かったのがあなたを推す決め手になった」と選考委員長から言われました。実はその教授二人は友達で、たまたま私の理論的志向とも共通点が多かったのも貢献したのかなと思っています。
あと、A大学の場合、昨年不合格になったあと、私を当時電話面接した教授にメールをして、どこがダメだったのか教えて欲しいといったところ、丁寧なメールが帰ってきました。そして再度応募する際に、新しいstatementを見てくれないか連絡したところ、なんとOKの返事。「私は今年はサバティカルだし、アプリケーションにはなんの影響力も持っていないから、そのへんのところよろしく」みたいなことがメールに書いてあったのですが、結局その教授と後日電話面接。聞くと私の書類がその教授に回されていたらしい。結果は合格。
ミシガン大学アジア文化言語学博士課程に留学されている平野邦輔さんのブログ



②Statement of Purpose

・過去のことだけでなくpurposeをきちんと説明する場所。どうしてそこを選んだのか、自分はそこで何をやりたいのか、その後習ったことをどうやって仕事に結びつけるのか?また、やりたいことに面白いアイディアを含められれば大きなプラス。
・他の学生と差をつけるにはここで面白いアイディアや自分が持つ稀少価値をもとに何がやりたいかを具体的に説明するべき
(以上、米国大学院学生会 海外大学院留学ガイドを参考に)

・アメリカの大学専攻は入試よりも就職活動に近い。審査する先生は「この生徒はうちの大学/研究に役立つか」を考える。
米国大学院学生会 ニュースレター7号

実務経験を経ないでPhDに応募してくる学生に対し、PhDプログラムが抱く最大の不安が日本でも悪名高いモラトリアムというやつです。実際、自分のラトガースのPhD同僚でも最も若い2人が脱落していきました(-。-;) PhDの授業を受けている間は、大学からゴールを設定されているため努力しやすいのですが、いざ自分の研究テーマを決める段階になると「やりたいこと」が分からずに、PhD取得に向けて足踏みすることが多いです。「組織の歯車になるのは嫌だ!」という一心でPhD受験をしただけで、実はあまり研究に情熱がなかったというケースを大学側は恐れているため、PhDでは実務経験がある組織の歯車となった経験のある応募者が有利になることが多いです。
35歳からのアメリカ行政学・公共経営Ph.D挑戦



③GPA

・ずっと良い成績をとっているのが一番だが、最初に成績が悪くて上昇傾向が見えると良い。また、審査員は受験している分野の成績を特に良くみる傾向がある。
(以上、米国大学院学生会 海外大学院留学ガイドを参考に)



④GRE

・Qualitativeにおいて最低でも700/800点は欲しい、Verbalも500/800点以上。またanalytical writing sectionも3.5/6.0以下はまずい。(以上、米国大学院学生会 海外大学院留学ガイドを参考に)
・GREは過去の受験分も大学に送られるので、充分に準備してから受験するのが望ましい。
米国大学院学生会 ニュースレター7号



*番外編~研究室選び~

・力を発揮するためには研究室の環境も大事です。指導教員の能力に加えて研究資金や設備、同僚の学生やポスドクなど、研究を効率的に進めるためにはさなざまな資源が必要です。
・アメリカでは、そのように環境が整っている有力研究室が上位30校くらいに広く分布しているので、ランキングに惑わされずに丁寧に調査することが大切です。
・トップ30校くらいまで対象校を広げたいところです。志望する研究分野が決まっていれば、その分野の教員に権威のある国際会議を教えてもらい、最近の招待講演者リストを調べると効果的です。
・このようにしてある程度の研究室をリストアップできたら、良い成果を多く出しているかどうか確認してみましょう。…比較的便利なh-indexという指標を紹介します。
・最後に、...、他の出願者に差をつける方法を紹介します。それは実際に研究室を訪問して、教授や学生と直に話してくることです。自分のCVを渡して教授に自己アピールしてくるのはかなりインパクトがあり、印象に残ります。
米国大学院学生会 ニュースレター24号

職名を書いているのは、Assistant Professorの場合は任期付きなので数年で移動してしまう可能性が高いため、指導教員候補として選ぶには注意が必要だから、Ph.D取得年を書いているのは、あまりシニア過ぎると最近の学界事情に通じていなかったり、すぐにリタイアする可能性もあるので、これまた指導教員としては微妙だからである。...興味がある研究をしている教員が重要なのは、志望理由書(SOP)の最後のパラグラフなどに、「私は~~先生の研究に興味があって、一緒に研究したいです」などと書くのが通例であり、場合によってはそこで名前が出た先生に自分の書類が回ったりするためである。その先生がこの学生を受け入れたいと思えば、合格する可能性も高まる(といっても、アメリカの場合はイギリスほど個々の教員の決定力は強くないと思うが)。イギリスの場合、そもそもここでリストアップした先生の誰かに事前に直接連絡を取って、ある程度話を通しておく必要があるので、リストアップは死活的に重要である。

この表は一度作ったら終わりではなく、出願が近づいたらもう一度再チェックした方がいい。場合によっては当てにしていた教員が異動していなくなっていたりすることがあるためだ。私の場合は、ある大学で一番興味があった先生が出願する年の秋にいなくなっていたのに気づかずにその人の名前をSOPに書いたり、また別の大学で一番興味があった先生が翌年にいなくなったりした。人事は大体事前に決まっているので、その先生はどのみちその年学生を受け入れるつもりはなかっただろう。後者の場合は防ぎようがないが、前者の場合は定期的にチェックしていれば防げたはずである。...。出願先を選ぶ際の基準として、私が重要だと思うのは、①「強い」関心を抱ける研究をしている教員が「多く」いること、②財政的に豊かであること、③評価の高いプログラムであること、④今後数年住みたいと思える場所にあること、である。順序は、①が一番大事、その他はその人の人生観と個別的状況による。
・出願先とするためには、教員リストの中に自分と相当程度重なる研究関心を持っている先生が、Associate Professor以上の職階を有するシニアすぎない教員1人を含めて合計3人以上いることが望ましい。この1人がコアになるわけだが、1人しかいないとその人がいなくなったら終わりだし、いても性格が合わなければ逃げ場がない。何より大事だと思う理由は、数人関心が合う人がいるようなプログラムでないと、そもそも受からない可能性が高い(つまり出すだけ無駄になる)ということだ。
・よほど自分の競争力に自信がない限り、10校全部ランキングトップ10の大学で占める、というのはやめた方がいい。全部落ちるというのは特に留学生のPh.D出願ではよくあることだ。トップ10の大学3-5校、トップ20-30の大学2-4校、それ以下のすべり止め1-2校といったところが妥当ではないだろうか。紅茶の味噌煮込み

Ph.D.の合否を決めるにあたって、スポンサーになってくれる教授が2人ほどいなければならない。「アドミッションコミッティー」という教授数人から成るものがあり、教授たちは毎年ローテーションでリクルートを担当している。このコミッティーの教授たちが中心となってアプリケーションを読みながら合格者を決定するのだが、最終的には学生と相性のよさそうな教授がいるかどうか、またその教授がどう思うかにかかっている。学部に自分のやりたいことを指導してくれるような教授がいなければまず話にならない。いたとしてもさらに問題なのは、教授たち全員が毎年思うように好きな生徒をピックできるわけではない。自分の興味とぴったりな研究をしているA教授がいたとしても、前年一人担当生徒が入学していたとしたら「Aさん去年一人付いたでしょう~今年はB教授にとらせましょう」みたいな事になるのである。この辺りの駆け引きは全て内部事情であり、外部からは全くみえないのだ。

そこで大切なのは、受験前に興味のある教授にメールをしてみる事だ。学部のウェブサイトをしっかり読み込み、興味のある分野を研究している教授を把握し、出来れば著書や論文をいくつか読み、個人的にメールをしてみ て「こういう者です。先生の研究内容に興味があります。来年受験しようと思っているのですが、院生を受け入れていますか?」と質問する必要がある。私も受験前の6月ごろ10人以上メールを打ったのだが、「君のリサーチは面白そうだけど、僕はまだテニュアじゃないから担当にはなれないんだ」や「今年は生徒とってないんです」といった返事がいくつか返ってきた。こういった学部は受験するだけ無駄であり、受験料の大幅な節約になるのでこのメールは必ずするべきだ。
米国大学院で文化人類学を勉強されているあんころそさんのブログ

一番のポイントは、出願 校を絞って徹底的にアピールするということです。感染症疫学で有名な大学院はアメリカに 数多くありますが、私は今回 5 校に絞って出願することに決めました。そして各大学の教授、ポ スドク、学生、卒業生に 5〜6 月頃からコンタクトをし始め、Ph.D.進学に興味があることや、こ れまでの経験と今後やっていきたいことを伝えました。うち 4 校には夏から秋にかけて訪問し、 研究プロジェクトや Ph.D.プログラムの構成などについて詳しく知る機会を作りました。学会で は志望校から来ている人がいないか探し、会う時間を作ってもらいました。同僚やこれまでの指 導教官・共同研究者の中に、志望校の教授らとの共通の知り合いがいないか探し、彼らを通じて 紹介してもらったり非公式の推薦メールを送ってもらったりしました。こうして約半年かけて少 しずつ輪を広げたおかげで、面接の時点では既にほとんどの先生や学生と面識があり何度も話し たことがあったので、とてもリラックスして臨むことができました。 CV を見れば一目でわかるような輝かしい業績を持っている人は、このように時間と費用をか けてネットワーキングする必要はないのかもしれません。しかし私のように他の出願者とあまり 差がつかないことが予想される人は、積極的に動いて自分のことをよく知ってもらうことは有効 です。アメリカの大学院には世界中の優秀な人材が多数出願してくるので、選考過程を経ていく Page 3 中で優劣をつけがたい人のグループは必ずできてしまいます。前述のように日本は点数でシンプ ルかつフェアに決めますが、アメリカはそうではないです。「こっちの子を取ろう」と思わせる にはどうするか。出願書類だけでいくらアピールしようとしても、エッセイには語数制限があり、 推薦状も 3 通までしか出せません。そこで私は徹底的にアピールして自分を知ってもらうという 戦略を取りましたが、他にも方法はいくつもあると思います。世界中の優秀な人材と戦って勝利 を得るために、自分に合った手段を見つけて実践してください。
Yale大学に公衆衛生Ph.Dで留学された塩田佳代子さんの奨学金財団での留学報告書


*番外編その2~奨学金選び~

紅茶の味噌煮込み
(オックスフォード大学政治国際関係学部に留学されたNaoさんのブログ)

今年からSPH入試の配点が変更になりましたので、その影響について考察します。

なお、配点はSPH受験ブログである『東大SPHを目指す貴方へ』様から引用させて頂いています。
こちらはSPH受験に対して恐らく最も精力的に執筆されているブログで、過去問のオリジナル回答なども作成しております。
SPH受験生の方は必見です。



スケッチ
画像は『東大SPHを目指す貴方へ』様のブログから抜粋



着目すべき点としては、

①統計の配点が20点と大幅に減少していること
②記述問題の配点が120点と大幅に上昇していること

でしょうか。


これは、SPHを目指す看護師にとって朗報だと私は捉えております。
看護師の方にとって恐らく最も苦痛である科目は英語、統計でしょう。
しかし、今回の傾向変化によってSPH入試における統計の重要性は低下しました。


では、一方で重要性が増加した記述問題、【専門】についてはどうでしょうか。
記述問題ということで、タフな印象を持たれる方もいるかもしれませんが、実はこの【専門】ですが、しっかり対策しておけばそれほど難しい科目ではありません。
詳しくは以前のブログで書いてあるので、そちらを参照にして欲しいのですが、選択対象である9項目の中には、簡単な知識、常識で対応できるサービス問題も含まれています。

「とか言って、結局は専門的な勉強が必要なんでしょ?」と思われるかもしれませんが、これらの問題で求められているのは疫学、公衆衛生の基本書を開けばどこにでも掲載されているような基礎知識です。
ですので、前提知識がない方だったとしても、基本書を通読し、過去問から幾つか例題を経験しておけば、問題に取り組むコツは十分に習得できると私は感じています。


「東大なんて」と思い、SPH受験を初めから除外している看護師に方には、ぜひとも諦めずに実際の過去問にも目を通してみて欲しいです。
応用力が求められる学部入試と違い、SPHの問題はどれも基本的な内容であり、決して難しくありません。
短期間の努力でも十分に対応可能な難易度です。
配点の50%を占める【英語】が得意な方にとっては、入試はなおのこと簡単なものに思えるかもしれません。


SPHの強みはコスパの良さです。
入試の簡単さ、学費の安さに比べて、受けられる教育の質、キャリアにおけるインパクト、そして留学や学費免除などの制度は非常に優れたものになっています。
私としては一人でも多くの看護師がSPHに入学し、自身の目標に近づくとともに、日本の看護界全体の底上げになれば良いなと思っております。

看護師の皆様、どうか”東大”というネームバリューに臆することなく、どんどん挑戦してください。
しっかり準備さえすればSPH受験は難しくない、恐るるに足らず、です。








Twitterで、このようなニュースが流れて来ました。
5歳の女児が無職の父親(33歳)の暴行を受け、死亡した、と。

1年半まえに児相の介入が始まり、定期訪問や一時保護を行なっていたが、児相は「けがの程度が軽かったことなどから危険性が高いとは考えていなかった」とのこと。定期訪問を行なっていたものの、妻が児相と距離を置きたがっていたことから、児相は徐々に関係を築こうと判断したということです。



なぜ、1年半前に児相の介入が始まっていたにも関わらず、暴行を止めることができなかったのでしょう。
児童虐待に対する制度に根本的な不備があるのではないかと思わされます。
と、他人事のように考えていたのだが、ここで自分が保健師免許を持っていることを思い出しました。
そこで、保健師と児童虐待の関係について調べてみることにした次第です。



『児童虐待の防止等に関する法律』を読んでみると、「学校病院等の教職員医師保健師弁護士等は、児童虐待に関して早期発見に努めなければならないとしている」として、保健師も早期発見努力義務があるということが明記されています。

高齢化が進む農村部で働いていた私にとっては保健師=高齢者福祉、精神保健のイメージが強く、児童虐待との積極的な結びつきは感じていませんでした。
しかし思えば、保健師は母子保健、精神保健に関わる主要な職種であり、さらに健診、家庭訪問を行なうことが許されていることから、児童虐待の予防、対応に積極的に関与することができる職種であると考えられます。
そのため、児童虐待防止法においても早期発見努力義務が課されているのでしょう。

さらに調べていて驚いたのですが、”保健師、助産師、看護師”の資格保持者は一定要件を満たせば、児童福祉士として就業できるということを初めて知りました。



ここで、国内における児童虐待の現状を調べてみました。

スケッチ


一見すると、急激に児童虐待が増加しているように思えるかもしれませんが、こちらは”相談件数”であり、実際の児童虐待の件数を反映してるものではありません。
つまり、児童虐待予防のプロモーションに行政が力を入れた結果、これまで相談されずにいた虐待が相談されるようになった、また、実際には虐待ではないけれど"念のため"報告したという事例も含まれています。なお、平成28年度の厚生労働省速報では相談件数12万2578件であり、さらに急増しています。



日本における児童虐待の実数は正確な統計がなく、「実際に増えているのか」どうかは不明ですが、時おり流れてくる児童虐待のニュースには胸が痛みます。


これまで、児童虐待をテーマにした芸術作品に触れることがしばしばありました。

是枝監督が巣鴨子供置き去り事件をテーマに撮影した映画『誰も知らない』は、何度見ても息が詰まりそうになります。







他に児童虐待を扱った国内の映画作品としては、『子宮に沈める』が。
この作品では、ただ虐待する母を”悪者”として描くのではなく、虐待の背景にはシングルマザーの困窮、社会的孤立などの社会的問題が潜んでいるということまで描いています。







小説ですと天童荒田さんの『永遠の仔』。
読み物としてもスリルがあると同時に、虐待を受けた児たちの擦り切れそうな心象風景をありありとかき出してらっしゃいました。


ダウンロード




ノンフィクション小説では『誕生日を知らない女の子』が。
これは、虐待を受けた児たちと、その支援者である里親、医療機関との関りを生々しく描いており、”支援する側”に立脚したノンフィクション小説として印象的でした。


ダウンロード (1)





少し落ち込むような話題になってしまったので、ここで児童虐待予防に対して華々しい成果を挙げているフィンランドの政策を紹介したいと思います。

フィンランドにおいては”ネウボラ”という妊娠期から子供の就学前までの一貫した母子支援サービスが展開されており、一人の保健師が一貫して関わり続けることが可能になっているようです。
サービスの内容は妊産婦健診、乳幼児健診、予防接種、一次医療と多岐にわたっており、国民は全て無料で受けることができるということである。なお、健診/相談は全て個別で行われており、一回当たり40分と充分な時間が取られています。その結果、サービス利用率はほぼ100%を達成しており、まさにフィンランド政府の「いかなる状況の子供であっても平等にサービスが受けられるように」という考えが忠実に実現されていると考えられます。
フィンランドにおける子供の虐待防止のための育児支援



さて、日本における児童虐待に戻ります。

そもそも、どのような親が児童虐待のハイリスクであるのか。
WHOの報告において、risk factorとして特に注目すべきものをリストアップします。

親のfactor
・新生児との関係構築不良
・自身の子供時代における被虐待経験
・児の成長に不注意、児に過剰な期待を抱いている
・アルコールや薬物乱用
・犯罪に関与している
・経済状況が悪い

関係性のfactor
・家族内に、身体、発達、精神に課題を抱えた構成員がいる
・家族の崩壊や、家族内での暴力
・コミュニティから孤立し、社会の支援網から漏れてしまっている
・より広い家族構成員からの子育て支援が得られない

コミュニティや社会のfactor
・性や社会的不平等
・家族や組織を支援するだけの十分な住宅やサービスがない
・高い失業率と貧困



問題が起きてから親を単位として関わるのではなく、問題が起きる前から予防的に親との関係構築をしておき、社会的な孤立を防ぐということが大切だということが分かります。
今回の虐待事例では、母親が児相の介入に対して消極的であったことから、まず関係を構築するというところから介入を始めざるを得ず、そのため手遅れになってしまったようです。

この観点から言えば、ネウボラにおいて一人の保健師が出産前から就学前まで継続して関わり続けるというのは非常に虐待の予防効果が高い介入方法であるように思えます。



WHOは同報告において、虐待予防のための有効なアプローチを挙げています。

・看護師(保健師のことでしょうか)が親子宅を訪問し、サポートや教育、情報を提供する
・両親に対して集団教育を行い、子育ての技術を向上させ、児の発達に関する知識を増やし、ポジティブに児を導くよう支援する。
・親の支援と教育、前学校教育、そして児のケアにを含む、多角的な支援



これらの業務は、まさに保健師の職務ですね。
児童虐待において、その通報・相談先は児童相談所であり、職種としては児童福祉士になるのでしょうが、その予防においては保健師に求められる役割は非常に大きいと思われます。

しかし、不思議なのですが、私が保健師教育を受けている際には児童虐待については学ぶ機会は決して多くありませんでした。
教員の守備範囲の都合たっだのしょうか。



さて、ではどのように家族との関係性を構築していけば、虐待予防に繋がる親子-保健師信頼関係が構築できるのか。

私は保健師として働いた経験はありませんが、国内において保健師が「育児や家族関係で困った時に相談にのってくれる人」というイメージを持たれているようには思えません。
『おおかみこどもの雨と雪』で、主人公の花が子育てに孤立し、疲労困憊している時に児童相談所の職員がマンションのドアをノックし、無理に室内に入ろうとする描写がありましたが、あのシーンでは児童相談所の職員は「頼んでもないのに勝手に押しかけてくる見ず知らずの他人」としてネガティブに描かれていました。

実際、保健師や児童福祉士に対してそのようなイメージを持っている人は少なくないのではないかと私も思っています。

保健師は、どのようにすれば母子にとって「いつでも相談にのってくれる頼りになる人」になることができるのでしょうか。

少々長くなってきたので、今回はここで終えたいと思います。












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